すっきり起きられないのはなぜ? 「逆算思考」で睡眠の質を高める
自分の「眠り」を採点するとしたら? 自信をもって「満点」をつけられる人は、どれだけいるでしょうか。
「睡眠時間は十分なはずなのに、すっきり目覚められない」
「仕事や家事で忙しくて、睡眠時間が削られてしまう」
こんな嘆き声も聞こえてきそうです。
眠りとお風呂の専門家である小林麻利子先生は、「質の良い睡眠をとるためには、『ただ眠る』のではなく『賢く眠る』工夫が大切である」と語ります。深く良質な眠りが得られれば、睡眠の満足度は格段に上がり、日中のパフォーマンスも向上するそう! 生活習慣の土台ともいえる睡眠について、見直してみませんか?
年齢とともに睡眠の質は低下する!
よく「日本人は、世界的にも睡眠時間が不足している」と言われます。実際、2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査では、日本人の平均睡眠時間は、調査対象33カ国のなかで最下位でした。
(出典:OECD Balancing paid work,unpaid wor kand leisure(2021))
さらに、厚生労働省の調査によれば、1日の睡眠が6時間未満の人は約4割に上ることが明らかになっています。加えて、約2割の人は「睡眠による休養感が得られていない」と答えていて、この割合は増加傾向にあります。
(出典:厚生労働省「令和4年 国民健康・栄養調査」)
小林:睡眠に悩みを抱えている人は本当に多いですね。これには、日本人の国民性や長時間労働の問題だけでなく、加齢に伴う睡眠の質の低下も関係しています。「随分前から、すっきり起きられたことなんかない」「常に睡眠不足」という人も少なくないでしょう。良質な睡眠を得るためには、ただ布団に潜り込むだけではダメ。ライフスタイルや年齢に合わせて賢く対策をすることが必要なんです。
睡眠の質は、行動や意欲にも影響を与える
小林先生は、朝のすっきり感から遠ざかっている人には、まずこんな問いを投げかけるといいます。
「たっぷり眠れた充足感とともに目覚め、朝日を浴びてぐーんと伸びをしてから1日をスタートできたとしたら、あなたは何をしますか?」
たとえば、朝から大好物のグラタンを作る。
たとえば、澄んだ空気を吸いに、散歩に出かける。
たとえば、コーヒーを淹れて、いつもよりゆっくり朝食を楽しむ。
小林:理想とするライフスタイルによって、思い浮かぶことは人それぞれでしょう。でも実際に気持ちよく目覚められたなら、誰もがそのイメージを実現できるはずなんです。良質な睡眠がとれれば、起床時には私たちの心身はフル充電完了の状態です。心身の疲れがリセットされて、新たな1日を始める意欲にあふれています。気力をふりしぼって1日を始めるのではなく、「今日はこれをしてみよう!」「このアイデアを試してみよう!」とワクワクしながらスタートを切ることができる。よい睡眠は、体と心、行動や意欲にまでよい影響を及ぼしてくれるものなのです。
良質で十分な睡眠のメリットは、さまざまな研究からも明らかになっています。
睡眠は、単なる「休息」ではなく、仕事、健康、美容など、すべてのパフォーマンスを底上げしてくれる土台ともいえるでしょう。
睡眠の質をセルフチェック!
小林先生によると、睡眠の質を自分でチェックするポイントは、次の3つです。
まず、寝付きがスムーズであること。実際に眠るまでの時間の長短よりも、「眠れない」と悶々とする感覚がないことが大事だといいます。
2つめは、中途覚醒がひと晩に2〜3回以上ないこと。トイレなどで目が覚めても、すぐに眠れるなら問題ありません。
3つめは、朝起きたときの睡眠満足度です。「気持ちよく眠れた!」と思えることが大切です。反対に、起床後1〜2分してもまだ頭がぼーっとしているなら、睡眠の質に問題がある可能性があります。
3つのポイントで自分の眠りを点検してみると、今まで「当たり前」「問題なし」と思ってきた睡眠にも意外な課題があることに気づくかもしれません。
自分の眠りに目を向けることが、質の高い睡眠を手にいれる第一歩となりそうです。
小林先生:入眠から30分以内に深い眠りに落ち、一晩で浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)の周期を4〜5回くり返すのが理想的です。最も深い眠りは、入眠から3時間以内に80〜90%が出現し、朝方にはだんだんと覚醒に向かっていくのが自然です。脳波を測定すれば、より客観的なデータをもとに睡眠の質を判定できます。
自分では「よく眠れている」と感じていても、脳波を測定すると異なる結果が出ることも少なくないそう。
小林先生:たとえば、徹夜をすれば、判断力や思考力の低下を明らかに実感しますよね。わけもなくイライラしたり、うっかりミスがふえたり、気づかないうちにパフォーマンスが落ちている可能性も大いに考えられます。
逆算思考で、朝のすっきり感を取り戻す
大切さはわかっていても、なかなか改善が難しいのも睡眠かもしれません。「眠りに落ちる」という言葉があるように、睡眠は意識の外にあるもので、自分でコントロールできないもの、という感覚を持つ人も多いのではないでしょうか。
また、睡眠時間、寝つきの悪さ、中途覚醒など、睡眠に抱えている悩みもきっと十人十色。どんな対策をすればいいのかわからない、と悩みも聞かれます。
小林先生:眠りに関する課題はさまざまですが、対策はとてもシンプルです。それは逆算思考で時刻を決めること。効率的かつ簡単に改善を目指せます。
小林先生が提唱するのは、起床から逆算して生活スケジュールを決めていく方法です。
小林先生:出勤、登校、仕事開始などの予定に合わせて起床時刻を設定します。そこから必要な睡眠時間を逆算するとおのずと就寝時間が決まります。推奨される睡眠時間は6時間半〜8時間です。仮に7時間眠るとすれば、朝7時に起きる人ならば、就寝時刻は0時です。夕食は就寝の4時間前、入浴は1時間前にすませるようにスケジュールを立ててみてください。
このようにして起床から逆算して食事や睡眠の時刻を決めていくと、体内リズムが整って、就寝時刻になると睡眠を促すホルモンが分泌されるようになるそう。
小林先生:朝起きたら十分に光を浴びることも大切。光のコントロールは、良質な眠りを導くための大きなポイントです。就寝時間近くになったら照明を落とし、副交感神経が優位になるように促します。そして寝る前の15分は、寝室を真っ暗にしましょう。頭皮マッサージをしたり好きなアロマを焚いたりと、心地よく眠りにつける「入眠ルーティン」を取り入れて、習慣にすることをおすすめしています。
冬の朝はゆっくり。季節に合わせた睡眠を
また、四季のある日本では、季節に合わせて起床や睡眠の時刻を調節していく知恵も必要だと言います。
小林先生:寒い冬はギリギリまで布団にくるまっていたい、と思いますよね。それはとても自然な感覚! 同じ人でも、夏より冬のほうが長い睡眠を必要とするのが一般的。頑張って起きようとしなくていいんです。ギリギリまで眠れるように、早めにアラームをセットしたり、何度もスヌーズをかけたりしないようにしましょう。とくにスヌーズは貴重な睡眠時間をぶつ切りにしてしまうようなもので、もったいない! 二度寝をすると深い眠りに入りやすく、起きるのが余計につらくなる、ということもわかっています。
睡眠の満足度を高めることは、生活の質を高めることにもつながります。
私たちは、睡眠という習慣について、もっと意識をすることがより一層大切になるかもしれません。
小林先生:忙しい人こそ、必要な睡眠を賢くとる工夫が必要です。仕事や子育てで忙しいからと睡眠時間を犠牲にした結果、日中のパフォーマンスは気づかないうちに下がっているとしたら、本末転倒ですね。たとえば仕事が忙しくても、夕食の時間になったら一旦中断して食事をしてほしいな、と思うんです。そして今日のタスクが終わらなかったとしても、就寝時刻になったらベッドに入る習慣をつけましょう。そのほうが長期的にみたら生産性も上がるはずです。
「睡眠ファースト」の逆転発想で生活の質を向上
寝る間も惜しんで働いたり、遊んだりと、とかく活動することばかりに目が向きがちな私たち。しかし、「忙しいから仕方ない」と思って削られがちな睡眠は、実は日中のパフォーマンスや健康、そして心の安定にも深く関わっています。
起床時刻から逆算して就寝時刻を決め、必要な睡眠を確保する。
小林先生が提唱する「逆算の睡眠法」は、いわば睡眠を生活の心柱として中心に据える、睡眠ファーストとも言える考え方です。これは、忙しい現代社会において、むしろ効率を高めるための新しい習慣ともいえるでしょう。
賢く眠るために、まず自分の睡眠を見直し、できることから少しずつ取り入れていくことが大切です。何より、明日の朝、すっきり気持ちよく目覚められたなら何をしよう。そう考えてみるだけで、なんだかワクワクした気持ちになれるのは、実は私たちが睡眠の力をもうすでに知っていることのあらわれなのかもしれません。
心地よく眠り、幸せな気持ちで目覚められるための、小さな生活習慣改革。
今日から少しだけ、自分の睡眠を意識してみませんか? その一歩が心も体もすこやかな毎日をつくる始まりになるはずです。
▼プロフィール
小林麻利子さん
眠りとお風呂の専門家。SleepLIVE(株)代表取締役。
公認心理師、日本睡眠環境学会正会員。
日本睡眠改善協議会認定睡眠改善インストラクター。
第32回日本睡眠改善学会奨励賞受賞
JCSP日本睡眠改善カウンセリング©主宰。
科学的根拠のある最新データや研究を基に、睡眠や入浴を中心とした生活に合った無理のない実践的な指導が人気を呼び、4,000名以上の悩みを解決。企業向けには、マンションやホテルの睡眠空間コンサルティングや、健康経営のための従業員健康支援「スリープアップ©」、睡眠研究所にて睡眠研究を行う。
著書に『「わたし」と向き合う1日10分のお風呂習慣 小林式マインドフルネス入浴法』(MdN)、『ぐっすり眠れる、美人になれる!「読む お風呂の魔法」』(主婦の友社)など。
LION Scopeでは「習慣」についてこれからも広く・深く探求していきます。みなさんも「習慣」について一緒に考えてみませんか?
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