日記は「空白があってもいい」書くことで見えた習慣本来の意味とは?
「三日坊主の定番はダイエットと日記」とよく挙がるほど、日記を習慣にすることの難しさを、みなさん認識していることと思います。
そもそも日記は何のために書くもので、どうして毎日続けないといけないと思ってしまうのでしょうか。
日記を書くと、“何かしら”良いことがある
「手帳」の名でありながら、1日1ページという独自のデザインで、日記として使われることも多い「ほぼ日手帳」。制作チームで企画とデザインをしているそのデザイナー、株式会社ほぼ日の星野槙子さんにお話を伺いました。
星野:日記を書くことのモチベーションは、すごく大きな答えになってしまうのですが、「書くと何かしら良いことがあるから」ではないでしょうか。その上で、その先にある「良いこと」は人によって様々です。
そもそも「日記」は何のために書くのでしょうか。そして、 日記を書くことが習慣化している人は、どのようなモチベーションで日記を続けているのでしょうか。
星野:一例ですが、自分が体験した出来事を忘れないように書き残したい、書くことで頭が整理される、紙に手で書くことが好きなど。「嫌なことを書き出すとすっきりする」という方もいて、その方は1年経ったら書き込んだ日記を捨ててしまうそうです。
多くの方に共通する「良いこと」のひとつとして、「読み返す楽しさ」があると思います。そういえばこんなことがあったな、と思い出す楽しさ。読み返すことで記憶がくっきりと立ち上がる面白さ。書いた時の自分との変化を感じること。そういう楽しさを知っているからこそ、「これは書いておきたい!」というモチベーションにつながることもあるのかなと考えています。
「どうしたら続けられるのか?」は永遠のテーマ
星野:実は、ほぼ日手帳をつくる中でも、「どうやって続けていただくか」というのは永遠のテーマ なんです。1日1ページとスペースがたっぷりあるので、ユーザーの方から「白紙のページがあると 罪悪感がある」というお声をいただくこともあります。
日記といえば、“毎日書く”もの。だからこそ、一度書かない日があると、続けられなくなったり、続かない自分が嫌だからと日記を書かなくなったり、そんな経験もあると思います。 なぜ日記を毎日書けないことに、私たちは罪悪感を覚えてしまうのでしょうか。
星野:おそらくその気持ちは、自分で決めたこと、やったほうが良いとわかっていることなのに、できない自分が嫌になる、ということではないかと考えています。私自身も、空白が気になってしまう気持ちはとてもよくわかります。
星野:ただ、日記に正しいフォーマットや正しい書き方はないと思っています。 ほぼ日手帳は「手帳」という商品名なので、スケジュール管理やTODOリストとして使っている方もいらっしゃいます。用途が日記の方の中にも、その日1日起こった“事実”だけを記載する方もいれば、起きたことに対する“感情”を記載する方がいたり、「積み重なって残るもの=日記」だと捉えれば、もっと気軽に残せるようになるのではないでしょうか。
あとは、書けなかったことを気にしすぎないのも大切かなと思います。白紙のページを見返した時に、そういえばこの時期は忙しかったなとか、どうしてもうまく言葉にできなかったんだよなとか、ある意味白紙自体が記録になっていたりもするんですよ。
日記のプロともいえる企業の方でさえ、毎日続けることは難しいと感じている。それを聞くと、「毎日続けなければならない」と決めつけなくても良いように思います。取材したLION Scope編集部のメンバーの中にも「それを聞いて何だか勇気づけられた」と話す者もいました。
星野:とはいえ、せっかく自分で決めたことだから毎日続けたいと考える方もいらっしゃると思います。その場合は、例えば毎日時間を決めて書く、自宅のすぐ手が届くところに筆記用具とセットで置いておくなど、自分に合ったちいさな工夫をしてみるのはどうでしょうか。お気に入りのペンを見つけて、書く時間を楽しみにするのもおすすめですよ。日記を生活の中に組み込んで、書かなくならないようにする、ということが大切なのかな、と思います。
毎日の過ごし方が変わる。「もの」としての愛着を感じる……
脳が活性化したり、ストレス解消につながったり、文章力が向上したりするなど、日記を書くことの良い効果については様々な研究がなされています。ユーザーの声をひろう開発者として感じる、良い影響はあるのでしょうか。
星野:まずひとつは、自分の変化に気づくことがあると思います。ダイエット記録のように数値をつけるものはもちろんですが、日記を何冊も積み重ねることで、忙しくて大変だったときの文字とそうでないときの差が見えてきたり、あるいは大人になっても字の上達が感じられたり。
また“日記を毎日続ける”と決めたことで、毎日の中で「日記に書きたい出来事はあるかな」と探せるようになったという方もいます。ただ1日家にいるだけでも、実は何もしない、考えないということはないはず。 例えば、日が長くなったな、とか、窓を開けたら金木犀が香ったなとか‥‥ちいさなことでも日記に書きたい出来事を見つけようとすることで、日々の過ごし方や感じ方・解像度が変わってくるんですよね。
星野:あとはシンプルに、「もの」としての喜びや愛着を持てることも大きいかなと思っていて。紙の日記に残すことで、お気に入りのデザインのものを使う嬉しさや物理的に過去の日記のページをめくって懐かしむこと、使い始める時は白くてピンとしていた紙が使ううちにしわしわになって手に馴染んでくる感覚などを楽しむことができます。
ほぼ日手帳はそうした感覚的な要素も大切にしたいと考えています。
内容を読み返す楽しさと共に、年月を経て「もの」として積み重なる喜びも、日記を続けるモチベーションになっていくのではないでしょうか。
「ハードルをあげず気楽に」。日記を書く習慣で大切なこと。
今回お話を伺って、初めから毎日書かなければならない、しっかりとした文章を書かなければならない、ページをすべて埋めなければならない、日記に書けるような素敵な日々を過ごさなければならない……。 と書くことに対する高いハードルを自ら設けてしまっているかもしれないと感じました。
日記は「何か良いことがある」と思って始めることがほとんど。想いや出来事を書き留めたい時に書く、もっと自由なもの。その目的を見失わず、あくまでも自分のために取り組む。 ルールにこだわらず、できることを続ける。その先に自然と「習慣」があるのかもしれません。
それはあらゆる習慣においても同じで、自分で決めたしばりに苦しめられ、本来の目的を見失ってしまうことがあるかもしれないと私たちも取材をしながら気づきました。
気楽にそして自分のために楽しむことで毎日の習慣をより充実させることができそうです。
LION Scopeでは、「習慣」についてこれからも広く・深く探究していきます。みなさんも「習慣」について一緒に考えてみませんか?
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