見出し画像

ほぼ日 糸井重里さんインタビュー編集後記。「100年前にライオンが出版した手帳に込めた想い」とは

メイン画像:「ほぼ日手帳」(右)と「ライオンの當(当)用日記」(左)

LION Scopeでは、「ほぼ日手帳」でお馴染みの株式会社ほぼ日で代表取締役社長を務める、コピーライターの糸井重里さんに、ライオンのパーパス(存在意義)のテーマである「習慣」についてインタビューをしました。

(インタビュー記事はこちら)

今回は、インタビュー記事に収めきれなかったこぼれ話も交えながら、編集後記をお届けします。

糸井重里さん

「ほぼ日手帳」とライオンの「当用日記」。驚きの共通点

株式会社ほぼ日が発行する「ほぼ日手帳」。持つ人それぞれが、用途や目的に応じて自由に使える手帳で、2001年に発売されてから20年以上経ったいまも多くの方に愛されています。1億総スマホ時代といわれてから早10年弱、日々のスケジュールを、スマホを使って管理されている方も多いでしょう。
 
時代の流れで紙の手帳の出番は少なくなっているかと思われましたが、「ほぼ日手帳」は156の国や地域で、売り上げを伸ばし続けています。スケジュール管理にとどまらず、1日1ページ、日記のように毎日の記録を残せたり、1日1つずつ掲載された日々の言葉を読めたり。手帳の枠を超えた、さまざまな工夫が支持されています。
 
じつはライオンも、100年以上前に手帳のような日記を販売していました。この機会に、と糸井さんに当時販売していた日記を見ていただきました。「こんな時代からあるなんて驚きですね。日記をつけるのも、歯みがきをするのも、同じ「習慣」だと考えれば、ライオンさんが日記を販売されていたのは自然なことかもしれない」と糸井さん。

ライオンが日記を販売していたのは、1919(大正8)年から。ライオンの前身である小林商店株式会社ライオン歯磨本舗時代、当時の常務が海外視察の折に、アメリカのダイアリーに触れたことをきっかけに「ライオン当用日記」を発刊しました。
 
「当用日記」とは「さしあたっての用事を記しておく日記」という意味で、ほぼ日手帳を少し大きくしたようなサイズ感です。書くスペースも大きく割いてあり、毎日日記を開いてもらうための工夫がほどこしてありました。それが、1日1行ずつの読み物と、200ページあまりにもおよぶ「付録」です。

手前が「ほぼ日手帳」、奥が「ライオン当用日記」

付録には、歯に関する知識や家庭常備薬についてなどの実用的な情報や、花言葉や誕生石、植物・動物・惑星などの趣味的な読み物が掲載され、さながら百科事典のミニチュア版のよう。まだテレビやウェブがなかった当時、貴重な情報源の役割を果たしていたのでしょう。

当用日記の広告。昭和2年(1927年)11月11日付の東京日日新聞(現・毎日新聞)より

白紙のページも、その人の一部になる

ほぼ日手帳や日記的なものを続けていらっしゃる方は、どうやって毎日書くことを習慣にしたのでしょう。毎日何かを書くって、とても大変なこと。糸井さんに、「ほぼ日手帳をつけていらっしゃる方は、書くことが習慣になっている方ばかりなのですか」とお聞きしました。
 
すると「三日坊主でもいいのですよ。」という驚きのコメント。「三日坊主でも、本人が気にしている限りは大丈夫だとぼくは思っています。気にしているっていうのは、意欲があるということ。『できることならやりたい』と思っている時点で、何か自分に求めているものがあると思うんです。きっかけがあれば、続けられるようになる可能性がありますよね」。
 
なるほど。習慣になるまでは三日坊主でもいい。意識がある時点で、すでに習慣化の道ははじまっている、ということですね。
 
「ほぼ日手帳」のユーザーに、書けなかった日について聞くと、そこにもストーリーがあるそうです。書けなかったときのことを振り返って語ってもらうと、「出産の日だった」とか「あの頃の私は書けなくて、あとで書き足した」とか。「このときは、フラれたから何もかも嫌になって」といった「書けなかったときの気持ちや出来事」が、その余白にこもっている。「白紙のページも含めて、その人のほぼ日手帳になっている」というお話には、日々の生活に寄り添う「日記」という存在のかけがえのなさを感じました。

習慣を受け入れてもらうためのひと工夫。ものごとを「深める」ではなく「浅める」

特集記事で紹介できなかった糸井さんのお話のなかでとくに印象的だったのは、「浅める」というフレーズのお話でした。「ものごとを受け入れてもらうには、『浅める』ことも大事だ」ということ。「深める」ではなく、「浅める」。
 
子どもだって「これはためになるから読みませんか」と言われた本はなかなか読まない。そこで、「ためにならないと見せかけて受け入れさせる」、これが「浅める」ということ。その成功例のひとつとして『うんこドリル※』を挙げてお話しいただきました。重い顔つきではなく、ライトタッチにすることで、すんなり受け入れやすくする提案の工夫です。

※文響社が出版する幼児、小学生向けのドリルシリーズ。例文全てに「うんこ」を用いている。

ライオンが届けているくらしの提案も、みなさんに受け入れてもらってはじめて、「習慣」になります。そういえば、かつての歯みがきは「朝の一回」が一般的。夜に歯は、みがきませんでした。

そんな時代、「夜、寝る前の歯みがき習慣」を当たり前にしようと、夜8時からの国民的コント番組のエンディングで「歯みがけよ!」の掛け声をかけていました。これはきっと「浅める」なのかな。
 
今回の糸井さんとの対話に出てきた「浅める」という言葉。習慣を受け入れやすくするためのヒントがここにあると、あらためて思いました。

「未完成の完成」を体現したほぼ日オフィス

今回、糸井さんの取材を行なったのは、神田・神保町にあるほぼ日の本社。コロナ禍の2020年の秋に移転した新オフィスのデザインは、谷尻誠さんと吉田愛さん主宰の「SUPPOSE DESIGN OFFICE」によるもので、フロアごとに違いのある、遊び心にあふれたオフィスでした。1階のエントランス横にはラジオブース、4階は乗組員(社員のこと)専用のロッカールーム、お店のように立派なキッチンもあります。
 
オフィスのコンセプトは、「夜逃げできるオフィス」。外出自粛やリモートワークが始まった頃に、これからのオフィスについて、糸井さんは「夜逃げできるくらい、軽やかに変化できるオフィスがいいんじゃないか」と考えたのだそうです。
 
たしかに、執務室にあるベンチや机は、簡単にバラせるようになっていて、イスにも机にもなるし、移動させれば簡単に空間のレイアウトをつくり変えられる。なんて自由な発想なのでしょう。
 
ほぼ日が、オフィスのデザインを手がけた谷尻さんと吉田さんにインタビューを行なった記事 のなかに、「未完成の美しさ」という言葉がありました。つくり手にとっては「完成=終わり」でも、使い手にとっては「はじまり」だという考え方で、つくり込まない、未完成だからこその美しさをお二人は大切にしているそう。ほぼ日のオフィスは、まさに「未完成の完成」を体現したオフィスでした。
 
ライオンは、2023年から、台東区の蔵前に新社屋を構えます。今後は、その進捗も掲載していく予定です。みなさん、どうぞよろしくお願いします。

糸井さん、取材をさせていただき、ありがとうございました!

撮影:青嶋雄介


▼マガジン「LION Scope」のそのほかの記事はこちら


この記事が参加している募集

習慣にしていること

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

最後までお読みいただきありがとうございます! LION公式サイトもぜひご覧ください!