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《前編》誰も取り残さないオーラルケアのために。「体験」からの習慣づくりに挑戦

皆さんのイメージする「理想的な社会」とはどんな状態ですか?
 
現代は、環境問題をはじめ、経済格差や健康と福祉など、さまざまな社会課題に、これまでになく注目が集まっている時代といえるかもしれません。
 
その解決に向けて多くの国や企業、そして個人が行動を起こすなかで、ライオンは「健康・快適・清潔な毎日とサステナブルな社会」の実現のために、2030年までに取り組むべき「サステナビリティ重要課題」を設定し、さまざまな活動を行なっています。
 
なかでも、人々の幸せな毎日につながる「健康な生活習慣づくり」と「サステナブルな地球環境への取り組み推進」を最重要課題として位置づけ、その解決策のひとつとして「インクルーシブ・オーラルケア」という概念でさまざまなプロジェクトを実施しています。
 
こうした流れのなかで、認定NPO法人と協働で開始したのが「おくちからだプロジェクト」。経済的困窮を含むさまざまな理由で、オーラルケアが行き届いていない家庭の子どもたちに、「歯と口の健康」をテーマにしたプログラムを体験してもらい、オーラルケアの習慣化と自己肯定感の向上を目指しています。

オーラルケアが、人と社会にできることを

現在では、口腔内の健康が全身の健康状態につながることが広く知られていますが、これは昔から常識だったわけではありませんでした。

ライオンは131年前の創業当時から、「事業を通じて社会のお役に立つ」という創業者の精神のもとさまざまな活動を行なっており、「健康は歯から」というスローガンを掲げ、オーラルケアの普及活動を行なってきました。

長い時を経てオーラルケアの習慣は広く定着しましたが、まだすべての人に行き届いているわけではありません。

そこで、生活環境、身体、経済、教育・情報などの状況にかかわらず、誰もが当たり前にオーラルケアの機会を持ち、他者からの強制ではなく自ら率先して習慣とすること。そして、その習慣化を支える仕組みづくりを行うことが、社会課題の解決につながると考え、オーラルケアを通じて、社会や環境課題に取り組む活動「インクルーシブ・オーラルケア」に取り組んでいます。

「インクルーシブ(inclusive)」という単語にあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、直訳すると「包括的」という意味になります。排除を意味する「エクスクルージョン(exclusion)」の反対語である「インクルージョン(inclusion)」から来ており、そもそもは「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」という、「どのような立場の人でも孤立したり、排除されたりせず、社会の一員として支え合う」という「誰も取り残さない / 取り残されない」社会の実現に向けた理念から生まれました。

生活困窮家庭の子どもは、むし歯が多い傾向に

日本では、約7人に1人の子どもが「相対的貧困」の状態にあるといわれています。「相対的貧困」とは、その人が暮らしている社会の一般的な生活水準と比較して経済状況が下回っている状態のこと。その日の食事や住む場所に困るといった明らかな「絶対的貧困」とは違って、相対的貧困は「見えない貧困」ともいわれ、現代日本の大きな社会課題のひとつとなっています。子どもや親にも自覚がなかったり、自覚があっても周りの目を気にして支援を求めなかったりするために、周囲の人が気づきにくい傾向があるのです。
 
こうした子どもたちが直面しているのは、満足な食事ができていない、学用品が揃えられないといった物質的な不足だけではありません。親が深夜まで働いているため家に帰っても誰もいなかったり、塾や習い事に通えないなどで放課後の居場所がなかったりすることから、人とのつながりが希薄になり、社会的に孤立している場合が多くなってしまうのです。また、親や大人から生活習慣を学ぶ機会が少なく、手洗い・歯みがきなどの知識や習慣が身につかない傾向も。実際に、生活困窮家庭の子どもは、そうでない家庭に比べてむし歯が多いというデータもあります。

生活困窮家庭の子どもは、そうでない家庭に比べてむし歯が多い傾向に(出典:2016年国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部 足立区・足立区教育委員会)

また、このような状況に置かれた子どもたちは、大人が思っている以上に自分の立場を理解しており、親や周囲の大人の顔色を気にして、「欲しい」や「やりたい」を我慢してあきらめるようになってしまいがちです。それは、むし歯や栄養不良という直接的な健康の問題だけでなく、「自分は必要とされていないのではないか」という想いにもつながってしまい、自己肯定感が低くなる要因になるといわれています。
 
これまでもオーラルケアに関するさまざまな取り組みを行なってきたライオンでしたが、ふと視点を変えたときに、オーラルケアが行き届いていない子どもたちの存在が浮き彫りになったことは衝撃的なことでした。「これこそ取り組まなければいけない課題ではないのか?」という使命感にも似た想いからスタートしたのが、「おくちからだプロジェクト」です。

ダンスやゲームなど、「体験」を通じて歯みがき習慣づくりにアプローチ

「おくちからだプロジェクト」では、そのときだけの歯みがき体験や、大人目線で「歯みがきが大事」と伝えるだけではオーラルケアを習慣として定着させることが難しいと考えました。そこで、習慣を家に持ち帰ってもらうことを目的に、子どもたちに身近な「遊び」を通して、楽しみながらオーラルケアに触れる機会を提供することにしました。さまざまな体験型プログラムを通じて、オーラルケアの大切さを理解してもらうこと、ひいては子どもたちの自己肯定感を育むことを目指しています。

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「おくちからだプロジェクト」で提供している体験

  • デコ歯ブラシ:毎日のケアに欠かせない歯ブラシを、子どもたち自身の手で自分好みにデコレーションする工作。

  • ダンス動画:身体を動かしながらオーラルケアの習慣化を学べる動画に合わせて一緒にダンス。(avexとの共同開発)

  • はごろく:人生のさまざまなエピソードを通じて、歯と口の健康の大切さに気づけるすごろくゲーム。

  • 紙芝居:クイズを交えながら、楽しく歯と口に関する基本的な知識を習得できる紙芝居。

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左がデコ歯ブラシ、右ははごろく

こうした体験型プログラムを少しでも広く、多くの子どもたちに提供することはライオンだけでは至難の業です。そこで、今後も持続的に活動を続けていくことを視野に入れ、ライオンと同じように子どもの貧困に向き合っている2団体、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(全国のこども食堂の支援と普及啓発に取り組む)、認定NPO法人フローレンス(子どもの福祉や子育て課題の解決のために活動)と協定を結びました。各団体のネットワークを活用させてもらいながら、問題の解決に向けてともにプロジェクトを展開しています。

<前編終わり>

記事の後編では、これまでの取り組みによって見えてきたことと、今後の課題についてお届けします。

▼インクルーシブ・オーラルケア

▼おくちカラダプロジェクト


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