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私たちの習慣は言葉でつくられた?子どもの力を引き出す「オノマトペ」の魅力

「オノマトペ(擬音語・擬態語)」と呼ばれる言葉をご存じですか?

「わんわん」「ぱくぱく」などのように人や動物の声、モノや自然の音を言葉にしたり、「きらきら」「わくわく」などと物事の状態や心情を表現したり。みなさんも日常生活のなかで、無意識に使っているのではないでしょうか。そんなオノマトペですが、とくに子どもと接する場面で使う機会が多いように感じます。

当たり前のように使っているオノマトペを深掘りしてみたら、子どもにとって良いことだけではなく、私たち大人にも役立つ意外な効果が見えてきました。


英語の4倍も存在!? 生まれたときから身近にある言葉

日本語は世界の他言語に比べて、オノマトペが多いといわれています。『日本語オノマトペ辞典』(小学館)には約4,500語が掲載されていて、一説には中国語の3倍、英語の4倍あるとされています。また、最近ではSNSの発達などによりその数を増やし続けていて、辞典に入っていない言葉も含めると私たちの日常に登場するオノマトペは約10,000語以上にのぼると言われています。

私たちの日常生活のなかに当たり前に存在するオノマトペについて考えるとき、子どもと接するシーンを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか? 子どもたちがオノマトペを口にする様子を思い出すかも知れませんし、実際に子どもに話しかけるときはオノマトペを使っていると思います。

手を「ゴシゴシ」洗う。歯を「シャカシャカ」みがく。子どもたちの日常にもさまざまなオノマトペが存在しています。そしてそれは、日常の「生活習慣」を表す言葉でもあります。

LION Scope編集部でも、私生活で子育てに取り組んでいるメンバーは、子どもとのコミュニケーションではオノマトペが多くなることを実感しているそう。もしかすると、日本の子どもたちはオノマトペを通して習慣を身につけているのではないでしょうか?

そんな、日本人と切っても切り離せないオノマトペについて、本当に子どもに習慣を身につけてもらうときに有効な手段なのか、オノマトペを使うことにメリットはあるのかなど、オノマトペ研究家であり、オノマトペを活用した幼児・児童教育、スポーツ、料理、コミュニケーション法、コーチングなどを実践的かつ多面的に研究されている藤野良孝さんにお話をうかがってみました。

日常にあふれるオノマトペの秘めたパワー

オノマトペは「すごく身近に感じられる情報伝達ツール」だと話してくれた藤野さん。

藤野:例えば「雨がザーザー降る」というと、ザーという音で雨の強さや勢い、量、そして恐怖感などを伝えることができます。これをオノマトペではない言葉で説明するとしたら「空から大粒の雨が勢いよく地面にたたきつけられているという少しまどろっこしい表現になるのですが、オノマトペならザーザーだけで、その情景や雰囲気を伝えることができます。

「雨がザーザー降る」と聞くと、雨脚の強さや、傘・地面に水滴が当たる情景も思い浮かぶ。

藤野:オノマトペはドイツ語で「音の絵」と言われるように、聞いたり目にしたりすることで情景が絵のように浮かび上がるといった特性があります。そういった意味で、オノマトペはたった1語で10のことを伝えることができる意味の含有率が高い言葉だと思います。

オノマトペというと、文学などの分野での表現力や心への働きかけなどに注目が集まりがちですが、身体性と密接に関係しているのも特徴の一つだと藤野さんは解説します。ご自身の研究でもオノマトペを実際に発声することで、身体のパフォーマンスが上がるということがわかったそうです。

藤野:例えばキャベツを千切りにするときに、一定のリズムで「トントン」と言うことで、同じ力加減で等間隔にキャベツを切れるようになります。「ン」の音で、動きを最後まで丁寧にやりきることができます。慣れてきて「トントン」の発話速度を速めると、動作も連動してさらに速くなります。

「トントン」とオノマトペを口にすることで千切りのスピードやリズムが変わるなど、日常の動作にも変化が。

藤野:オノマトペは身体の動きとシンクロしやすいので、歯みがきのときなども無言で行うよりもオノマトペを念頭に置くと動きが連動して歯をみがく動きまで身につくようになり、習慣化に大きな影響を与えるのではないかと考えます。

オノマトペが子どもの興味とやる気を引き出す!?

オノマトペに秘められた意外な効果にも驚かされますが、それでは実際に子どもたちにとってオノマトペはどのような存在なのでしょう。子どもたちがオノマトペを好む理由についてフォーカスしてみます。

藤野:まずは単純に、音の響きが楽しいということだと思います。オノマトペには「わんわん」「にゃんにゃん」のように、音が繰り返されるパターンが多く、これが楽しくて興味を引くようです。

また、子どもの脳に入りやすい言葉だということも理由の一つだと思います。以前に脳神経外科医の林成之先生にお聞きしたのですが、脳の神経細胞は興奮と抑制という一定のリズムを繰り返しながら活動しているそうです。そこに音の情報が入ってきたときは興奮をつかさどる神経細胞だけが反応するそうなのですが、オノマトペは脳に入ってきたとき神経細胞のリズムとマッチしやすいようで、「同期発火」という現象を脳に起こして「おもしろい」「楽しい」と感じさせやすいのだとか。

藤野:やはり「楽しい」は受け入れやすいですし、子どもたちも「動きたい」「やりたい」という気持ちになると思います。子どもに行動を促したり、何かを習慣化させたりする場合、大事なことは最初のアプローチ。お片付けも歯みがきも「楽しい」という気持ちがないとやってはくれないと思いますね。

子どもがやりたくないと思うことをやってもらうときに、楽しい音=オノマトペを使えばいいのではないかと考えた藤野さん。実際に子どもに向かってオノマトペを使うときにもコツがあるようです。

藤野:リズムがポイントになると思います。実際、私たちの体はリズムで成り立っていますよね。歩くときはテクテク、走るときはタッタッタなど、全部リズムとセットになっています。オノマトペもリズミカルなので両者はすごく親和性が高く同期もしやすいんです。

リズミカルかつ円滑に行動できるというのは、その動作を習慣的なものとして習得できているということを意味します。行動がスムーズにできないというのは、必要なリズムが身についていない、体現できていないと言えるかと思います。そういった意味で、オノマトペを活用することは行動を無意識下でも行える習慣にするのにすごく役立ってくると考えています。

親の想いをダイレクトに伝えるオノマトペ

行動をオノマトペで表現すると「楽しい」が生まれ、やる気が高まると話してくれた藤野さん。そこからさらに踏み込んで、行動を「習慣化」させるのにもオノマトペは役に立つと考えるそうです。

藤野:オノマトペは「行動してほしいことだけがダイレクトに伝わる」という点でも子どもの習慣づくりの手助けになると感じています。

例えば子どもの姿勢が悪いとき、多くの親は「○○ちゃん、姿勢を良くしなさい」といった感じで注意すると思います。ただ、「姿勢を良くしなさい」って「悪い」と言われているようなものですから、わかっていても否定されたような気持ちになるんですね。そうすると、歯向かってしまったり、自己肯定感ややる気が下がってしまったりすると思います。

これに対してオノマトペを使って、「○○ちゃん、背筋をピーンとしようか」と伝えると、否定された気持ちは出てこないと思います。なぜなら、言葉が行動にダイレクトに働きかけるからです。

脳の情報処理の考え方に「二重過程理論」というものがあるのですが、そのなかでは情報処理を、直観的・情動的に反応する「システム1」と論理的・理性的で熟考を要する「システム2」に大きく分けています。
オノマトペは「システム1」で処理されるので、直感的に即座に反応して良い姿勢を想起させます。

一方で「姿勢を良くしなさい」は「システム2」で処理されることになります。論理的に考えることになるので、子どもたちは頭のなかで「顎を引く、肩を落とさない、猫背にならない、足を組まない」など、いろいろと考えて時間がかかってしまいます。つまり、オノマトペは素早いルートで情報処理できるので、素直に行動に移せるということなんです。

藤野:さらに、明るいイメージのオノマトペを使うことで、行動に対するハードルが下がったり、気持ちが前向きになったりもします。100%うまくいくとは限りませんが、子どもたちの行動にダイレクトに働きかけるオノマトペを使うことは、効果的な指導や習慣化に結びつくのではないかと考えています。 

また、子どもだけでなく、大人にとってもオノマトペは習慣化の手助けになるのではないかと、藤野さんは推測します。

藤野:オノマトペの音をヒントに、運動の再現性を高めることができます。一例として、ゴルフのパターを打つときに「すーすー」というオノマトペで距離感を合わせる練習をしてみます。何度か練習すると声の長さにつられてターゲットまでの距離を身体で理解できるようになり、実際に私のカップインの確率は上がりました。

そして、それを体得しておくと、1週間後にもう一度練習するときでも、オノマトペをヒントに同じ動きの再現性を高めることができました。これがオノマトペではなくて、コーチからの長々とした論理的な言語説明では再現は難しいと思います。

背筋を「ピーン」と伸ばすという言葉のほうが直感的に理解しやすいように、大人もまた、オノマトペを使うことが運動の再現性を高めたり、日常の動きを習慣化させたりするのに役立つ可能性がありそうです。

「オノマトペ」で楽しいから始める習慣

オノマトペというと、幼い子どもをあやすための言葉といったイメージもありましたが、お話をうかがってみると、行動に対する子どもの理解度を高めたり「楽しそう! やってみたい!」と興味を膨らませたりする言葉として、習慣づくりの第一歩となるという一面を知ることができました。

また、大人にとっても何かを習慣にしたいときの足掛かりになるかもしれないということは、意外な発見でした。毎日の行動をオノマトペとひもづけることが、より楽しく、前向きな毎日を過ごすためのヒントになるかもしれません。

みなさんも仕事や日々の生活、noteを書くときなど、無意識のうちにオノマトペを使っていたりしませんか? 自分の「オノマトペ」を見返すと、何か新たな発見があるかもしれません。

LION Scopeでは、「習慣」についてこれからも広く・深く探究していきます。みなさんも「習慣」について一緒に考えてみませんか?

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