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なぜ人は非日常を求めるのか―週末キャンプが現代人の本能を呼び醒ます?

なにげない毎日の暮らしの大切さを感じながら、一方で、慣れ親しんだ日常だけではどこか物足りなく感じてしまうのは、きっと多くの人が頷くところではないでしょうか。
ときには日々の生活習慣にとらわれず、自由気ままに過ごしてみたくなったり、仕事に全力投球の日々が続けば、休日には仕事を忘れてどこかに出かけてみたくなったり。非日常への好奇心がやまないのは、私たち人間の本能のひとつなのかもしれません。

人はなぜ非日常を求めるのか。
そして非日常は、日常や日々の習慣にどんな影響を与えているのか。

今回、この問いをともに考えてくださるのは、國學院大學北海道短期大学部 幼児・児童教育学科教授の田中一徳先生です。田中先生の専門は「冒険教育」。キャンプをはじめとする自然体験教育を研究・実践しています。

昨今、キャンプやアウトドアの人気が高まり、さまざまなスタイルのキャンプが楽しまれるようになっています。キャンプに魅力を感じる人が増えている背景にも、「非日常を求める本能」が関係するのでしょうか。
「非日常と日常」「習慣」をキーワードに、ひもといていきます。

自然のなかで人間らしさを確認する

仕事に疲れたとき、毎日にどこかマンネリを感じたとき、あなたはどんな方法で気分転換をしますか? 映画を観る、おいしいものを食べる、推し活に没頭する、スポーツをする、さまざまなリフレッシュ法がありますが、近年人気が高まっているキャンプも効果絶大なリフレッシュ法といえるでしょう。都市生活から離れ、自然に浸れるキャンプでの体験は、日常の対極にあるといってもいいかもしれません。

キャンプ愛好家の裾野が広がっていることを、田中一徳先生は次のように分析します。

田中:キャンプは、普段省かれている“手間”を楽しむ活動ともいえます。便利な都市生活では発揮する機会のない能力・スキルが、自然のなかでは物を言います。野外にテントを張る、火を起こして料理をする、寝袋にくるまって眠る。自然と対峙しながらの活動は、生きる力を試し、確認することにもつながります。
キャンプに、自分らしさや人間らしさを取り戻すような感覚を求めている人は多いだろう、と考えます。

確かに、キャンプでの活動を並べてみると、食事、団欒、睡眠など、日常生活で習慣的に行なっていることばかり。それ自体は目新しいものではありませんが、自然のなかに身をおくと、そのひとつひとつがワクワクする冒険へと変わるようです。

田中:ガスコンロの火を見ても何も感じないけれど、キャンプで焚き火をしていると、火を眺めているだけで癒される、という声もよく聞かれますね。炎のゆらぎは1/fゆらぎといって、生体が持っているリズムと合っている、という研究もあります。古来、人は火の周りに集い、獲物を分け合って食べていたはず。火への親しみは、脈々と遺伝子に刻み込まれているのではないか、と感じます。

自然のなかでは、より原始的な本能が刺激されるのかもしれません。
炎のはぜる音や川のせせらぎに耳をかたむけ、刻々と変わる空の色を見つめるうちに、五感が研ぎ澄まされ、なんだか頭のなかもクリアになったように感じられる。こうした感覚も、自然に包まれるキャンプの醍醐味です。

田中:自然の中での活動でストレスレベルが下がる、という研究は数多く報告されています。自然の癒し効果を私たちは本能的に知っていて、都市生活に疲れると自然を求めて出かけたくなるのではないでしょうか。

能動的な体験だからこそ「身につく」

日常を忘れて楽しみながらも、日常とまるっきり切り離されているわけでもないのも、キャンプのおもしろいところです。

そのためか、キャンプをきっかけにして、新たな習慣を取り入れる人も少なくないそう。

田中:たとえば、野外で食べた食事のおいしさに感動した経験から、普段の食を見つめ直したという人もいます。家庭菜園を始めたり、地産地消を心がけるようになったり。花や山菜、きのこに興味が湧いて、詳しくなっていく人もいますね。キャンプで感じた「雄大な自然を写しとりたい」という思いをきっかけに、写真やデッサンにのめりこんでいった人も。

日常へのフィードバックがあるのは、キャンプでの感動や気づきは、すべて自分の手足を動かし、行動した経験に裏打ちされていることも大きいでしょう。見るだけ、読むだけの知識ではないからこそ、深く刻み込まれる、と田中先生は指摘します。

田中:現代生活はさまざまな情報に溢れていて、知識に触れることは容易です。でも、見て知っていることと、やってみることの間には大きな隔たりがありますね。キャンプは手間の多い活動ですが、だからこそ記憶に残るんです。

さらに自然のなかでチャレンジする体験は、自己肯定感アップにも寄与する、という研究も。

田中:やってみたらできた!という成功体験は、大人にとってもうれしいもの。キャンプは小さな成功体験をいくつもできる場でもあり、自己肯定感を高める効果もあると言われています。
学校や社会の物差しでは測れないものが、自然のなかにはたくさんあります。方向感覚に優れている、嗅覚が鋭い、視力がいい、こうしたことも自然のなかでは評価される。自然体験は、その人が本来持っている力が評価される機会でもあるんですね。

自己肯定感は、幸せに生きるための土台と言われます。キャンプを楽しむなかで知らず知らずのうちに自己肯定感も高められているとしたら、それは家や職場に戻ってからの毎日を支えてくれるものとなるでしょう。

サードプレイスとしてのアウトドア

田中先生は、今後、キャンプやアウトドアはビジネスパーソンの「サードプレイス」の役割も果たしていくのではないか、と考えています。

田中:キャンプがサードプレイスになりうる、というのは、私自身の体験からも感じていることです。1人で行うソロキャンプも人気ですが、一般的には複数人で協力したほうがいろんな活動をしやすいですよね。アウトドアは、仕事や家庭とはまた別の、心地よいコミュニティを築く場にもなりやすいと思います。私のアウトドア仲間は、職種も年齢もさまざま。でも、一緒に焚き火を囲んでいると、おもしろい話がポロポロと出てきます。すぐに仕事に直結しなくても、クリエイティブな話ができると刺激を受けますね。

家でも職場でもない、居心地のいい場所を持つことは、ストレスの多い現代社会で自分らしく生きるためにも重要だとされています。
純粋にキャンプという非日常を楽しめる仲間とのつながりは、ビジネスパーソンにとって貴重で心地いい存在となるであろうことは、想像に難くありません。

また、キャンプでの活動自体も、サードプレイスとしての魅力を備えている、と田中先生。
キーワードは、「アクティブメディテーション(動的瞑想)」です。

田中:単純動作を繰り返すうちに一種の瞑想状態に入っていくことを、アクティブメディテーションといいます。たとえば薪割り。薪に斧を振り下ろし、割る。次の薪をセットして、また割る。動きに集中して無心になっている状態は、マインドフルネスそのもの。心が穏やかにリラックスしています。焚き火に薪をくべるのも、同じですね。日常生活ではなかなか得難い感覚ですが、自然のなかではすーっと入り込みやすいと感じます。

今後、日々のストレスや疲れを軽減し、心をすこやかに保つためのサードプレイスとしてのキャンプにも、より注目が集まっていくかもしれません。

日常を豊かにする非日常

日常を離れてリフレッシュしたいと思うとき、自然を求める人が増えているのは、日々のストレスをうまく逃し、心穏やかに毎日を過ごすための本能的な選択なのかもしれません。

田中先生のお話を伺うと、自然の中での体験は決してその場限りのものではなく、私たちの心身に確かなインプットとして刻まれ、さまざまな形で日常に還元され、日々の習慣を振り返るきっかけにもなることに気付かされます。

「なんだかすっきりした!」
「体は疲れているけど、月曜日からまた頑張れる!」

こんなふうに思えたなら、きっとそれはいい非日常を過ごせた証。疲れたとき、モヤモヤしたとき、自分の味方になってくれる非日常があったら、どんなに心強いことでしょう。
あなたの日常にポジティブなエッセンスをくれる非日常は? サードプレイスとなる非日常の過ごし方を探してみると、毎日の習慣がもっと豊かになるかもしれません。

LION Scopeでは、「習慣」についてこれからも広く・深く探究していきます。みなさんも「習慣」について一緒に考えてみませんか?

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