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ワクワクする運動習慣づくりで、介護の未来を明るく変えていく。ライオン初の試みに挑んだ研究者たち

多忙な日々のなかでついつい体を動かすのが億劫に・・・
運動したほうが健康に良いのはわかっているけど、なかなか行動に移せなかったり、続かなかったり。人生100年時代と言われるこんな時代だからこそ、いつまでも健康な自分でありたいけど、運動習慣を新たにつくるのは難しいもの。

そんな中、ライオンでは、健康を維持しながらいきいきと暮らせる社会の実現を目指して、“楽しい運動習慣づくり“を生み出す新たなプロジェクトをスタートさせています。開発したのは、口腔・睡眠・運動器の3つの機能を同時にトレーニングできる体操。今回、本プロジェクトのメンバーを取材し、取り組みの背景や想いを探ってきました。

ライオン研究員がはじめた楽しい運動習慣づくり

話を聞いたのは、“楽しい運動習慣づくり“のプロジェクトメンバーである物井さん、篠原さん、斎藤さん。3名はライオンのイノベーションのハブとして、研究所発の新規事業開発を担う研究員です。
彼らは2022年1月に、当時東京大学医学部附属病院22世紀医療センターの特任教授であった松平浩まつだいら・こう先生(※)とともに、口腔・睡眠・運動器の3つの機能を同時にトレーニングできる健口眠けんこうみん体操』を開発。
 ※現所属:Tailor Made Back pain Clinic院長。福島県立医科大学医学部疼痛医学講座特任教授

さらに、高齢者がより楽しく継続的に体操を行えるよう『健口眠体操』をゲーム化して搭載した、介護トレーニングゲーム機『TANO-LT』をTANOTECH(株)と協働で開発しました。

きっかけは「現場」と「想い」のマッチング

ーープロジェクト開始の背景には、超高齢社会を取り巻くさまざまな課題があると思いますが、「運動」にフォーカスしたのはなぜですか?

物井:私たちライオンでは、機能性食品やハミガキなど“製品”を提供することで皆さんの健康をサポートしてきましたが、今後は健康維持に向けた“サービス”にも注力していきたいと考えています。私自身、健康的な習慣をつくるために色々調べる中、やはり”運動”こそがすごく重要だと感じていましたし、ヘルスケアのリーディングカンパニーを目指すライオンとしても、“運動習慣づくり”に取り組むべきだと考えていました。

プロジェクトリーダーの物井

また、別の仕事で介護施設を訪れた際、高齢者の方々が運動を続けられないことが、介護の現場にも本人にもマイナスに作用していると感じ、現状を解決したい、という気持ちもありましたね。運動すれば身体の調子が良くなることはわかっているけれど、モチベーションが保てず続かないし、レクリエーションをするにも介護施設側にも負担がかかってしまっている。そこで、まずは介護の現場で皆さんが楽しみながら続けられる運動をつくりたいと思い、このプロジェクトを立ち上げたんです。

ーーなるほど。プロジェクトメンバーである篠原さん、斎藤さんは参画が決まったとき、率直にどんな気持ちでしたか?

篠原:面白いプロジェクトだなと思いました。私自身、新規事業開発の部所に配属されたときから、ワクワクする習慣づくりをしたいという想いがあったので、このプロジェクトは私のやりたいこととすごくマッチしていました。また、身近で祖父母が老々介護をしているのを見て、自分自身も将来に不安を感じていたこともあり、「これはやるべきだ」という使命感もありましたね。
 
斎藤:私が最初に感じたのは、「すごく大きなプロジェクトに入ったな・・・」ですね(笑)。現状、多くの企業がチャレンジしながらもなかなか上手くいっていない課題に取り組むということで、ライオンとしても大きなチャレンジですし、生半可な気持ちではやり遂げられないなと。それに加えて他社さんと協業しながら、0→1でシステムを立ち上げてビジネスとして売っていくという点でも、かなり大きな挑戦だなと感じました。

委託ではなく、協業。3者の想いが詰まった『TANO-LT』

ーー今回のプロジェクトは3者協業で開発しているんですよね。

物井:はい。当初から3者協業だったわけではなく、最初は腰痛研究・運動療法の第一人者の松平先生と、運動療法を用いた取り組みができないかというところからスタートしました。松平先生は痛みケアのプロで、運動することによって痛みを治すことを提唱しているんです。
 
もしぎっくり腰になったら休むじゃないですか。でも先生は「2〜3日経ったら動きましょう」とおっしゃるんです。実際にデータを見せていただくと、たしかに動いているとぎっくり腰の再発率がかなり減っていて、私自身適切な運動をすることはすごく大切なんだなと思うようになりました。そしてこのことは、私たちが目指す超高齢社会の課題解決ともマッチしていたので、松平先生と一緒に開発させていただくことになりました。

ーー松平先生と共同開発した『健口眠体操』は、名前にも入っているように、お口の機能や睡眠にも効果があるのだとか。

物井:そうなんです。開発にあたって高齢者の方々にヒアリングをしたり、論文などを読んだりしていくなかで、身体の動きだけではなく、食べる、話す、笑うなどの口腔機能や、睡眠機能にも課題があるなと。それらを解消することが高齢者のQOL向上に繋がるとわかってきたので、これらを全てまとめて効率的にトレーニングできる体操を開発しようと考えて生まれたのが、『健口眠体操』です。脳の複数部分を使うことで、認知機能の改善も狙っています。
 
松平先生と私以外に、ライオンの口腔機能と睡眠機能を専門に研究するメンバーに入ってもらい、それぞれの観点から高齢者が安全に実施できて、かつ効果が実感できる運動をピックアップしながら体操を完成させていきました。

ーー複数部位を同時にトレーニングできるというのは新しいですよね。『健口眠体操』完成から、TANOTECH社を迎えて『TANO-LT』を開発することになったのはなぜですか?

物井:実際に、介護施設で『健口眠体操』の動画を投影して一緒に取り組んでもらったところ、ある程度楽しく運動していただけることはわかりました。しかし、中には、映像を見ているだけの方も出てきてしまうんですよね。それでは効果も現れないし、さらに工夫が必要だなと。そんな時、ある社員からTANOTECH社の技術について教えてもらったんです。
 
TANOTECH社が開発したゲームは、モーションセンサーで運動している人の骨格をセンシングして動きを捉え点数化するので、ぼーっとしていられないし、ついつい頑張っちゃう。そんな話を聞いて、“楽しい運動習慣づくり”に取り組もうとする私たちに欠かせない技術だなと思いました。協業という形を取ったことで、エンジニアとして斎藤を受け入れてもらい、一緒にゲームの開発を進めることができました。

篠原:私たちは、超高齢社会の未来を明るく変えていくには、個々ではなく同じ想いを持った企業が力を合わせて取り組んでいく必要があると思っていて。その点、TANOTECH社も介護業界の未来をすごく真摯に考えている企業なんです。だからこそ、技術開発を完全に委託するのではなく一緒に取り組むことになりました。

サービス開発担当の篠原

「楽しくて思わず続けちゃう」と好評! さらに数値の改善も

ーーライオンとしても、研究員の皆さんとしても初の試みの連続だったかと思いますが、実際に取り組んでみていかがですか?

物井:開発のための体制をつくりあげるのが大変でしたね。協業のためには、ライオンの中でもゲームの技術開発ができる人を育てたいと思っていたのですが、普段ハミガキなどの日用品の製品開発をやっている研究員たちからしたら、「ゲーミフィケーション(※)って何のこっちゃ」みたいな感じなんですよ(笑)。ただ、最終的には、斎藤がTANOTECH社に出向いてゲームのシステムを開発する体制をつくることができたので、よかったですね。
 ※ゲームの要素や仕組みをゲーム以外の分野に応用したアプローチ

ーー斎藤さんは冒頭で「生半可な気持ちではやり遂げられないと思った」とおっしゃっていましたが、エンジニアとしてシステム開発に携わることに不安はありましたか?

斎藤:そうですね、そもそも、ゲームの開発の経験がほとんどなかったので(笑)。実際にプログラムを書いて、お客様に使ってもらいながらどんどん改善して価値あるものを生み出していく、というサイクルを回していくこと自体が簡単なことではないなと感じています。

一方で、やりがいや手応えはすごく感じています。ゲーミフィケーションを取り入れて開発をする上で私が一番に考えているのは、「誰も傷つけたくない」ということなんです。
 
たとえば、爆発するボールを投げて相手を倒すゲームってよくありますよね。でも人によっては、過去に何かをぶつけられて傷ついたことがあったり、そういう光景を見たくなかったりするかもしれない。
 
そういった背景にまできちんと想像力を働かせた上で、みんなが楽しくなるアイデアを発想して、実際に技術に落とし込んでいきたいなと思いますし、今まさにTANOTECH社から学ばせていただきながら実践しているところです。

ゲーム機のシステム開発担当の斎藤

ーー「誰もが安心して楽しめる」というのも、すごく大切な要素だなと思います。実際に『TANO-LT』を利用された方からはどんな反響がありますか?

篠原:私は実際に『TANO-LT』を導入している介護施設に足を運ぶことが多いのですが、一番インパクトがあって面白かった感想は「こんなに動いちゃって後悔する」ですね(笑)。その“後悔”もネガティブな意味ではなく「本当は筋肉痛になるから動きたくないのに、楽しいからつい本気になって動いてしまった」ということなんです。そういった声をいただくことが多くて、すごく嬉しいですね。

ーーすごい。「楽しくて思わず続けちゃう」というのは、当初の皆さんの狙い通りですよね。

物井:そうですね。介護スタッフの方々からも睡眠改善などの効果を実感したコメントもいただいていますし、データ上でもかなりいい結果が出ています。たとえば、5m歩行速度の測定をした際に、8〜9秒のよたよた歩きだったところから、『TANO-LT』での運動習慣を通じて、5〜6秒でスタスタ歩けるようになったケースも。続けることで、狙い通り効果が現れることがわかってきました。

施設における導入成果

より使いやすく、よりワクワクするサービスを追求し続ける

ーー皆さんの熱意や、前向きに取り組んでいる様子がとても伝わってきました。
最後に、今後の課題や展望について教えてください。

篠原:施設でご活用いただいている現場を見せていただくと、入居者の方に『TANO-LT』でのゲームをしていただくまでに、スタッフのみなさまの使いやすさといった点で、私たちが想像していなかった課題があると感じました。それは私たち自身が、まだ介護業界に対する理解が足りずに起きていることなので、もちろん「楽しい」は軸に置きつつも、スタッフの方たちの「運用のしやすさ」と両立させるために、どんなサポートができるのかを考えないといけないなと思っています。

物井:介護スタッフの方たちからすると、運動の重要性はわかっていても、トイレの介助など目の前の生活介護を優先せざるをえない状況があるんですよね。そういった中でも上手くバランスを取りながら実施できるように、できるだけオペレーション部分の負担は軽減していきたいところです。また、『健口眠体操』や『TANO-LT』については、まだまだ認知度が低いのが現状です。これから、国内外問わず多くの人に知ってもらい、健康寿命への貢献を目指す仲間の輪をどんどん広げていきたいと思っています。今後の展開に期待していただければと思います。

物井則幸(写真中央)
『TANO-LT』プロジェクトのリーダー。社内のさまざまな研究所を渡り歩き、これまで主に口腔や睡眠分野の研究に携わる。そこで培った技術や社内研究員との繋がりを総動員し、今回のプロジェクトに挑む。

篠原大輝(写真左)
サービス開発を担当。介護施設などの現場に赴き、スタッフや利用者からの声を直接拾い上げ、誰もが使いやすいものづくりを進める。

斎藤貴大(写真右)
ゲーム機のシステム開発を担当。システム開発は未経験ながらエンジニアとしてTANOTECH社に出向き、新たなスキルを習得しながらTANO-LTの改良に取り組む。

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