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人工知能研究者・黒川伊保子さんインタビュー編集後記。「デジタル時代のコミュニケーション術」とは

LION Scopeでは、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』などの著者で人工知能研究者の黒川伊保子さんに、ライオンのパーパス(存在意義)のテーマである「習慣」についてインタビューをしました。そのときのこぼれ話として、「デジタル時代のコミュニケーション」についての興味深いお話がありましたので、編集後記として紹介します。

デジタル時代のコミュニケーションで起こるトラブル

AIと人とのあいだのコミュニケーションを研究するうちに、「人と人とのコミュニケーションが上手くいかない理由」に気づいたという黒川さん。デジタル化が進んでいくことによって、人間の習慣はもちろん、ライフスタイルや考えるプロセスなども変わりうると言います。
 
黒川さんが最近気になっているのは、対面でのコミュニケーションの際に、相手の「表情」に対する反応が弱い人が増えていることだそう。
 
黒川:本来人間には、「悲しそう」「嬉しそう」などといった相手の表情によって、自分も自然と同じような表情になるという「共鳴反応」が起こるのですが、これが弱い人が増えていると感じます。相手の表情や仕草、筋肉の動きなどを、自分の脳内に鏡のように映す「ミラーニューロン」という神経細胞の働きが弱くなっているからだと考えられます。
 
こうした特徴をもつ人というのは、誰かの話を聞くときに、うなずいたり、笑顔になったりといった反応がほとんどありません。だから、話す側にしてみると、自分の話に興味がないように見えてしまい、「話聞いてるの?」「やる気あるの?」と言いたくなってしまうのです。
 
ところが実際には、反応が薄いだけで、本人はきちんと話を聞いている。だから叱られても「なんで?」と思ってしまい、ここにコミュニケーションの齟齬が生まれてしまうんです。

リアルなコミュニケーションの温度が低い人は、デジタルなコミュニケーションの温度が高い

黒川さんいわく、ミラーニューロンが働いていないということは、「目の前の人の所作を自分の脳のなかに取り入れていない」ということ。つまり、例えば会議のあとに先輩がゴミの片づけをしていたとしても、そもそもそれを認識していないのです。すると当然、「代わりにやろう」という発想には至りません。
 
これに対して「なんでやらないの!」と叱っても、本人にとっては「やれと言われたことでもないのに、なぜ叱られるのだろう」と、まったく納得できないというわけです。
 
こうした齟齬を回避するには、いったいどうしたらよいのでしょうか?
 
黒川:「なんでやらないの?」の代わりに「これやってね」と伝えることが大事です。実際、こうした直接対面の反応の弱い方たちは、SNSなどを駆使して、デジタルコミュニケーションを頻繁にとっていたりします。リアルなコミュニケーションの温度は低くても、代わりに、デジタルコミュニケーションの温度が高いのです。
 
いまの時代、リアルとデジタル、いずれのコミュニケーションを得意とするかは人によってさまざま。どちらが良いとか、すぐれているということではありません。そのことを理解して、お互いにコミュニケーションの方法に気をつけることで、もっと相手を受け入れやすくなると思います。

編集後記~習慣とコミュニケーションのアップデート

プライベートにはLINEやInstagram、仕事にはZoomやTeamsと、現在ではデジタルツールを駆使したコミュニケーションが活発になっています。こうした環境は、これまでと異なる習慣やコミュニケーションのあり方を生み出しています。

 その結果、脳の使われ方に変化が生じて、「リアルコミュニケーションが得意な世代」と「デジタルのコミュニケーションが得意な世代」が登場してくるのは、とても自然な流れです。それぞれ相互理解の努力をし、お互いの背景を含めて理解してコミュニケーションをとっていかなければ、すれ違いが起きることは容易に想像できます。

 習慣もコミュニケーションも、時代に合わせてアップデートが必要なのですね。私たちも進化をつづけなければいけないとあらためて感じたお話でした。

今回、黒川さんの取材を行なったのは東京都台東区にある眼鏡屋さん。今年、ライオンが移転した本社の近くにあります。黒川さんの知的なイメージに合わせて選んだお店で、落ち着いた雰囲気の店内に、かっこいい眼鏡が並んでいます。取材後に個人的に訪れて、自分の眼鏡を買ったスタッフもいました。

環境と脳と習慣。とても示唆に富んだお話をたくさん聞かせていただきました。黒川さん、取材をさせていただき、ありがとうございました。 

撮影:青嶋雄介


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