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「知識」と「目利き」で人生の可能性を広げる。行動観察の第一人者・松波晴人さんインタビュー編集後記

今回、LION Scopeでは「行動観察」の第一人者である松波晴人さんにライオンのパーパス(存在意義)にある「より良い習慣づくり」についてお話をうかがいました。
 
この編集後記ではインタビューのなかでお聞きした「行動観察」について、エピソードを交えながらさらに深掘り。加えて、多くのビジネスパーソンが抱える悩みのヒントとなる、先入観にとらわれない松波さんの考え方をご紹介します。

「庭のホースの巻き方」で顧客の状況を読み解く!? 松波さんが発見した驚きの営業ノウハウ

日常のなかで、私たちは無意識にさまざまな選択を行ない、生活をしています。

「行動観察」とは、アンケートやインタビューとは異なり、本人のなかで言語化できていない、意識すらしていない動作を観察し、その根底にある考えやニーズを可視化させるものだと、松波さんは話します。
 
松波:相手の行動を見て、単に「こういうことだ」と決めつけるのではなく、「なぜそうなのか?」ということを人間の深い理解に基づいて探る手法、これが行動観察です。
 
松波さんが数々の行動観察を行なってきたなかでとくに印象的だったのが、個人宅にうかがう訪問営業の方に同行した際のエピソード。「売上を立てる人」と「そうでない人」の違いを観察し、売れる訪問営業のノウハウを導き出すという行動観察だそう。
 
松波:営業に弟子入りするようなかたちで1日ずっと同行していたのですが、ある優秀な営業担当がインターホンを押す前に、訪問先の庭にあるホースを確認していて驚いたのを覚えています。
 
言葉やコミュニケーションである挨拶よりも前に庭先を見るという行動に気づいた松波さん。
 
松波:「なんでそこを見ているんですか?」と尋ねたら「ホースの巻き方で商品の意思決定にかかる時間が予測できる」と話していました。つまり「庭がきれいでホースがきちんと巻いてある家庭は、ものごとをきちんと進めるため意思決定に時間がかかると予測される。その場では購入してもらえないと踏んで、そのうえで商品を購入していただくために、どのように話をしたらご納得いただけるかシミュレーションし、ご家庭の方とお話をする」と。
 
このように、松波さんは言語化されない真実や発見が「行動観察」を行なうことで見えてくるのだと語ります。
 
経験豊かな営業の方はそれ以外にも沢山のことをやっているが、本人は気づいていない。そのためアンケート調査などで言語化してもらうのは難しい。だから行動観察が必要だと語ってくださいました。

さらに、松波さんは一緒に同行している新人営業の行動も観察したといいます。ただ、その新人営業は同じ場面に遭遇しても「先輩が庭先のホースを見ている」という事実やそのノウハウを見つけることができなかったのだそうです。多くの人は、同じように目の前のヒントを見過ごしてしまう、と松波さんは言います。
 
でも、松波さんは、例で示したような「ご家庭のホースを見ている場面」に何かあると感じ、質問を重ねて極意に近づくことができる。何が違うのでしょうか?
 
松波:気づくかどうかは、観察者側の目利き力によります。そのためには、私たちは多くの信頼できる知識(Knowledge)を持つ必要があります。信用できるかどうかよくわからないネットの情報に振り回されていては、ダメなのです。

「ただ一つの正解」などない。現代社会で企業が持つべき新たな思考とは?

企業は新たなサービスや商品を提供する際、さまざまな調査や実験を行ない、「こうしたほうが使いやすいな」「こう使ってほしいな」と考え、研究し、世の中に届けています。しかしいざ商品を販売すると、お客さまは必ずしも企業が想定した使い方をしているとは限らず、その人なりの独自の使い方をする、ということが起こります。
 
企業のなかには「理想とする使い方になっていない。コミュニケーションの方法が良くないのかな?」「商品パッケージやデザインを変えたらよいかな」と日々悩んでいる商品担当者も多くいます。私たちは、「なぜそういったすれ違いが起きてしまうのか」という疑問を松波さんに尋ねてみました。すると松波さんは「企業の正解が生活者の正解ではない」と話し、つぎのように語ってくれました。
 
松波:「その人にとってはその人の使い方が正解」と見たほうがいいかもしれないですね。生活者にとってはそのほうが使いやすい、生活になじみやすいということになる。企業側は、思いもよらない使い方をするかもしれないという前提でいないといけません。

 さらにもう一つ原因があるかもしれないと松波さんは語ります。
 
松波:商品やサービスをわかってもらうハードルが高すぎる可能性もあるのだと思います。わかってもらうにしても段階があって。一気に複雑なものをわかってもらおうなんて、これだけ情報過多の時代に無理だと思っていたほうが良い。
 
お客さんが「この商品はこんなふうに使ったらいいんだ」とすぐに理解できる「入口価値」と、企業側が商品によって本当に実現したい「本質価値」といった段階があると思います。お客さんにわかってもらうのにもいきなり崖を登るみたいにするより、階段をつくったほうが良いと思います。
 
いきなり完成品を渡すのではなくて、ここの価値だけわかってくれたらいいと決める。そこだけ出してまた次に階段を上るように伝えていく。企業側が、生活者は賢いからわかってもらえると思いすぎる傾向があるのではないでしょうか。
 
だからこそ企業も一回でわかってほしいと「正解」を探してしまい、完全無欠のすごい商品をつくろうとなりますけど、そもそも何かの使い方に一つの「正解」があるかと言えば、そんなものはないんです。
 
「自分たちがベストだと思う使い方をしてほしい」とどうしても思ってしまいますが、「正解」を探さない。それぞれが正解を持っているということを前提に製品開発やコミュニケーションを行なうことが重要だと話されており、私たちも大きな学びがありました。

 編集後記

今回は蔵前にあるライオン本社にて取材を行ないました。「行動観察」というと他者の行動を見て、思考を深め、新しい発想を生み出す非常に高度な技術だと思っていました。けれどもじつは自分たちも無意識のうちに行なっていたり、自らの日常生活にも活かしたりできるものなのだと気づいた取材でした。
 
松波さんのお話は行動観察を通じて得た具体的なエピソードがたくさんあり、取材でありながら学校の授業を聞いているよう。私たちも自然と日常のなかで「行動観察」をする機会が増えたように思います。
 
松波さん、取材をさせていただきありがとうございました!

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