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子どもの「生き抜く力を考える」新・家族のコミュニケーション習慣

家族みんなで食卓を囲み、なごやかにその日の出来事を語り合う。「一家団らん」と聞くと、きっと多くの人は温かい食卓をイメージするのではないでしょうか。

しかし、仕事や部活、塾に習い事など家族それぞれに予定があって、全員が顔を合わせることすら難しい、という家庭もあるでしょう。
「もしかして、ウチの家族ってコミュニケーション不足?」とそこはかとなく不安を感じている人も少なくないかもしれません。
京都女子大学 発達教育学部教育学科教授の表真美先生は、「家族の数だけ、団らんの形がある」と語ります。現代のライフスタイルに合わせた、新しい団らんの形を探っていくことで生まれる、家族のコミュニケーション習慣のあり方を探ってみましょう。


団らんの歴史は浅かった?

「団らん」とは、丸く輪のように集まって座り、楽しく談笑すること。一家団らんは、家族が仲むつまじく集まることを指します。

表:日本人に一家団らんという意識が芽生え始めたのは、実は大正時代に入ってからなんです。それまでは、時代劇で見るような「箱膳」を出して食事をとるスタイル。家族の構成人数も多いので、全員が集まれるようなテーブルやちゃぶ台もないし、それぞれが家業や家事労働に忙しいため、手の空いた者から食事をしていくのが普通でした。

また、食事中の会話は控えるべきものとされていて、食事は必ずしも温かなコミュニケーションの場ではなかったそうです。
会話をしながら食事をする風景が一般に広まるのは、戦後以降。ホームドラマやアニメによって、そのイメージが定着していきました。

団らんは場所を選ばない

表:団らんという言葉のそもそもの意味から考えても、団らんの歴史を振り返っても、また核家族化が進んだ現代の家族の形から考えても、私は食卓に集まることだけが団らんだとは考えていません。週末に家族みんなで出かけることも団らんだし、出かけなくても、楽しい雰囲気の中で様々な話をすることは団らんです。
 
食卓に限らず、家族がリラックスして会話ができるなら、どこでも団らんの場になり得る。
そうした大きな前提に立った上で、表先生は改めて食卓での団らんが持つ意味を語ります。

表:さまざまな研究からも、団らんによって家族の絆が深まることが示されています。「どんなことがあっても安心して帰れる場所がある、迎え入れてくれる家族がいる」という安心感は、外の社会で頑張るときの支えになりますね。食事は1日3食、毎日欠かさず行う営み。食事どきに楽しく会話をするという習慣を持つメリットは、非常に大きいことに違いありません。

楽しい場が子どもの自己肯定感を高める

さまざまな研究によっても、家族がともに食卓を囲むメリットは明らかになっていると言います。心身の健康や自尊感情にもプラスの効果があるほか、学業成績にもいい影響があるとする研究も。

表:ポイントは、楽しく会話をする、ということです。同じ食卓についていたとしても、小言を言われたり、嫌な話題を出されたりすれば、団らんの効果は得られません。団らんの時間が楽しいと感じている子どもは、自己肯定感も高いんです。

「テストの成績がふるわなかったけど、ちゃんと勉強しているの?」
「ゲームばかりしていちゃダメだよ!」
子どもの顔を見ると、つい親心から小言を言いたくなることもあるでしょう。でも食卓ではできるだけ封印!

表:家族が好きなこと、関心を持っていることを話題にするのがいいですね。お子さんがいる家庭なら、子どもの好きなことに歩み寄って。子どもの「推し」について教えてもらったり、親子で盛り上がれる話題を見つけたりできるといいですね。

ルールを決めて、会話ができる環境に

「食事を温かな団らんの場にしたい」という思いはあっても、実際には帰宅時間がバラバラで「個食」になってしまう、という声は少なくありません。また、同じ食卓を囲んでいても、それぞれにスマホを見ていたり、テレビやWeb動画にくぎづけだったりで会話がない、という家庭もあるでしょう。

表:昭和の時代は、テレビをつけたとしても、家族みんなが同じ番組を見て、テレビを共通の話題とできました。しかし、今は娯楽もさまざま、個人がそれぞれにデバイスを持っていて、何もルールを設けないと、会話のない食卓になりやすい状況だと言えるでしょう。とくに子どもがいる家庭では、親がきちんとルールを作り、家族の会話ができる環境を作ることが大事だと思います。

スマホが当たり前の時代だからこそ、子ども時代からメリハリを持った使い方を教えていくことが大事。食事どきはスマホを見ない、テーブルに出さないといったことも、親が教えていきたいルールと言えるでしょう。

表:また、毎日が難しいなら、家族で食事をする曜日を決めるのもいいですね。「夜は時間が合わないから、朝ごはんは一緒に食べよう」「子どもの塾がない水曜日は、パパもママも早く帰ってきてみんなで夕食を食べよう」など、無理なく続けられる「我が家のルール」を作っていくと、負担感なく、団らんを楽しめるのではないでしょうか。現代社会では、家族といえども「集まろう」という意識をもって機会を作っていかないと、簡単にバラバラになってしまう。それは頭に入れておきたいことだな、と思います。

心の拠り所が、子どもの心を強くする

表: 戦後に家制度が廃止された際、家族の絆を繋ぎとめるものとして、人々は「食卓での団らん」を求めました。現在での家族の形はさまざま。私は、家制度に代わるものが、家族の団らんと考えています。

家族の形もライフスタイルもさまざまな現代。どれが正解で、どれが不正解というものではありません。また、友人や地域のコミュニティなど、家族以外とつくる団らんの時間もあるのではないかと感じます。
ただ、子どもにとって団らんの時間が心の拠り所になったり、頑張る自分を支えてくれる「柱」のような存在になったりすることは、きっと共通しているはずです。将来、子どもが困難に直面した際にも、心の拠り所や「柱」は子どもをしっかりと支え、強く生き抜く力を与えてくれることでしょう。そして団らんは子どもだけでなく、親である私たちの心にも働きかけ、家族の絆も強くしてくれるはず。

「これが家族である」と外側から縛るものがない分、それぞれの家族が自分たちらしい団らんの形を考え、それぞれがちょっとだけ努力をして集まる。新しいコミュニケーション習慣を意識して少しずつ作っていく、その積み重ねこそが、家族の形を作り、子どもの生きる力を育んでいく営みなのかもしれません。

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