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お口の機能低下を防ぎ、人々の「食べる・話す・笑う」楽しみを守りたい。自ら情報発信を行う研究員の想いとは

国や医歯学界が注目している老化のサイン、「オーラルフレイル」を知っていますか?
 
オーラルフレイルは、「Oral(オーラル)=口」と「Frailty(フレイル)=虚弱」から成る言葉です。滑舌低下・食べこぼし・噛めない食品が増えるなどといった口に関する機能の衰えを指し、放っておくと摂食・嚥下(えんげ)障害(※)などで口から食事を摂れなくなってしまう恐れも。そのため、できるだけ早期からの対策が求められています。
 ※食べること、飲み込むことの障害のことで、上手く食べられない、飲み込めない状態

オーラルフレイル概念図

「オーラルフレイル」の考え方は厚生労働科学研究によって示され、その後さまざまな検討が進められているそう。オーラルフレイル概念図の第Ⅲステージ“口の機能低下”については、2018年に新たな医療保険病名として「口腔機能低下症」が収載されています。さらに、今後急増する高齢社会での臨床活用に向け、新たな知見確保や調査研究が進んでいるところです。
 
ライオンでは2018年に口腔科学の基盤研究を専門とする研究所を新設。そのなかに、オーラルフレイルを含めたお口の機能について研究するグループがつくられました。
 
最近では研究員が主体となって、まずは社内向けにオーラルフレイルの概念を浸透させるために、情報発信など独自の取り組みをスタートさせているのだそう。
研究員自ら行う情報発信とは、一体どのような内容なのでしょうか?
 
オーラルフレイルの研究に取り組む内山さん、青山さん、林さんにお話を伺いました。

老化だから仕方ない? 答えは「NO」です。

ー内山さんは、2018年以前から「口腔機能」を研究テーマにしてきたそうですが、何かきっかけがあったんですか?

内山:以前、研究の一環で介護施設に頻繁に足を運んでいた時期がありました。その際にご高齢の方のお口の課題を目の当たりにしたのがきっかけです。食事をする際に食べづらそうにする姿や、話しづらそうにする姿を見ました。当社では従来、むし歯や歯周病を予防して健康な歯をいかに残すかということに力を入れてきましたが、それだけではなく、口の機能を維持したり高めたりすることも重要なんだなと強く実感したんです。そこから「口腔機能」を研究テーマにしたいと思い、2016年頃から研究してきました。
 
その後、2018年に口腔科学専門の研究所が設立され、現在は青山さんと林さんを含めたメンバーで、口腔機能に関する研究や取り組みを行っています。

グループマネジャーの内山

ーなるほど。現状、オーラルフレイルの概念はどの程度広がっているのでしょうか?

内山:当社調査(※)によると、オーラルフレイルを「知っている」と回答している方の割合は全体の3割弱です。ですが、その中でも具体的にどのような症状が現れるのか知っている方はかなり少ないと思います。たとえばご高齢の方が急に「ウッ」とむせたり、喉に痰がからみやすくなるのは、老化だから仕方ないと諦められがちで、多くの方は、ケアの必要性を感じていないというのが現状です。
健康長寿を目指すなら知っておきたい!「フレイル」「オーラルフレイル」とは? | Lidea(リディア) by LION

ーたしかに、家族が食事の際にむせやすくなったのを見たときも、年を重ねていけば当たり前のことなんだろうなと思っていました。

内山:そうですよね。ですがケアしなければ、将来的に食べることもお話することも困難になってしまう可能性があります。お口の機能が弱り始めていても、自覚のない方がたくさんいらっしゃるので、私たちは、皆さんにお口の不調に気づくきっかけと、気軽にオーラルフレイルのケアができる商品やサービスを提供していきたいと思い、今研究を進めているところです。

食堂や社内関係者と連携して実現した「咀嚼力UPランチ」

ー皆さんの所属するグループでは、研究と並行して、独自に情報発信の取り組みを行っていると伺いました。

林:はい。私たちはいわゆる白衣を着て実験するような研究開発と同時に、情報発信にも力を入れています。オーラルフレイルとはいったい何なのか、世の中の認知度はまだまだ低いのが現状。それは、オーラルケア製品を開発している当社においても同じです。
 
そこでまずは、一番身近な生活者でもある社員たちの意識から変えていきたいと思い、社内への認知を広げる取り組みを考えました。その一つが、「咀嚼力UPランチ」です。

ある日の「咀嚼力UPランチ」

ーおお! これは、食堂で提供されているランチですか?

林:はい。社員食堂と連携して、週に2回「咀嚼力UPランチ」として噛む回数が自然と増えるメニューを提供してもらっています。口腔機能の一つである「咀嚼」を一番実感しやすいタイミングは、やはりご飯を食べるときなので、社員が日々利用する食堂で何かできたら面白いのではないか、ということでスタートしました。

 ー実際に食堂で「咀嚼力UPランチ」の提供が実現するまで、どのように進めていったのか教えてください。

林:何気なく社内の知り合いに話してみたところ、タイミングよく社員食堂の企画管理メンバーがユニークなメニューを検討していることを知ったんです。そこで私たちのテーマや想いを伝えたところ、すぐに賛同してもらえました。その後、社内の関係者や食堂の方たちの協力の下、実現させることができました。
 
ー見た目も味もおいしそうですよね。メニューはどのように決めているんですか?
 
林:私たちからは、噛み応えがある材料の選定や、噛む回数が自然に増えるような切り方の工夫などをお願いしていて、具体的なメニューはいつも食堂の管理栄養士の方が考えてくださっています。

技術開発・情報発信担当の林

ーたくさんの方が関わって実現しているんですね。研究者が主体となって、他部所や外部と連携してメニューを変更する事例は珍しいと思うのですが、何か苦労したことはありますか?
 
林:たしかに前例がなかったので、誰に何を相談すべきかを判断するのは難しいところでしたね。ただ、やりたいと思ったことを、理由も含めてきちんと言葉にしてお伝えできたので、みなさんの共感を得られてスムーズに進められたのではないかなと感じています。私自身、当初想定していた以上に大事になってしまって、少しビビりましたけど(笑)。

ー日々研究をしている皆さんの言葉だからこそ、より説得力が生まれたのかもしれませんね。「咀嚼力UPランチ」を食べた社員の方たちから、反響はありましたか?
 
林:「食事の際、一口で何回噛んでいるのかを気にするようになった」「自身の健康管理のために口腔機能について意識しようと思った」などの声をもらっています。効果検証として実施した社内アンケートでも、約7割が「口腔機能・オーラルフレイルに対する興味・関心が増した」と回答してくれました。
実は全社的に見ても研究所の社員は比較的若く、20〜30代がボリュームゾーン。本来であればまだ口腔機能低下を実感しづらい年齢層ですが、これをきっかけに早期からの意識向上に繋がったのは嬉しいですね。また、「自分の両親の口腔機能について考えるきっかけにもなった」という声もありました。

社内向けのメディアを通じた情報発信で、社内の共感を獲得

社内向けのWEBメディアを制作

林:情報発信のもう一つの取り組みとして、グループのメンバーで協力し、社内向けの「オーラルフレイルケア」メディアを立ち上げました。食堂での取り組みだけでなく、「なぜ今、オーラルフレイルに着目しているのか?」「わたしたちが何を目指しているのか」について発信することで、より社内のメンバーに影響を与えることができると考えました。

ーより伝わりやすくするために、工夫した点はありますか?

青山:情報量が多くなりすぎないように気をつけましたね。たくさん文字が書いてあっても読んでもらえないので、情報の正確性を失わないように留意しつつ、伝えたいことを絞るように心掛けました。

林:また、オーラルフレイルの正しい情報を伝えるのはもちろんですが、私たちの研究テーマが発展していく過程も一緒に皆さんに見せていくことで、より共感を持ってもらえるのではないかなと思い、サイトのコンテンツに盛り込みました。

ーこの取り組みを行ってみて、いかがでしたか?

内山:情報を出す前は、社内での限られた情報提供とはいえ、私たちも少しためらいがありましたね。スルーされて何の反響もない可能性も十分ある、と懸念しつつ、やってみないとわからないという想いから、情報発信を実行することに。林さんを中心に若いメンバーの自由な発想の元、形にしてくれました。

結果、同じく若い社員たちをはじめ社内のいろいろな方が共感してくれて、フランクに受け入れてもらえているのかなと認識しています。コンテンツに「いいね」を押してもらえると嬉しいですし、みんなのモチベーションになっていると思いますね。

青山:私自身、これまでに情報発信に取り組んだ経験はあまりなかったのですが、確かな情報を分かりやすく伝えていくことは、研究における重要な仕事の一つでもあるので、とても勉強になりました。今回の経験を生かして、もっと社会全体にオーラルフレイルケアの重要性を伝えていきたいですし、併行して研究開発も頑張って進めていきたいと思います。

技術開発リーダーの青山

林:こんなに自由に新しいことに挑戦できたのは、マネジャーである内山さんが「やろう」と言ってくださったからなので、ありがたかったです(笑)。

内山:いやいや、私はみんなが自由にやりたいことに取り組んでもらえたら嬉しいので(笑)。

オーラルフレイルケアという新・習慣を

ーグループの雰囲気の良さが良く伝わってきました。社内で実施してきた取り組みを経て、今後の展望を教えてください。

林:若い層の意識を高められたことは非常に良かったのですが、やはり今すぐケアが必要な50〜60代の方たちにきちんと届いたかという点では、まだ課題があると感じます。これからは研究開発にも注力しつつ、今回社内で得られた結果や知見を活かして、一般の生活者の皆さんにどう伝えていくかも含めて、どんどん検討を続けていこうと思っています。

内山:昨秋、お口の衰えが、お口の筋力の低下であることに着目したアプリケーションサービス「ORAL FIT(オーラルフィット)」の販売を開始しました。このサービス開発にも、私たちは関わってきましたが、ここがゴールではありません。当グループとしては次の技術を開発しつつ、これらの事業と連動させて、双方でしっかりと情報共有しながらサービスの拡充を進めていきたいなと思っています。

現在販売中の「ORAL FIT」は、言わば“お口のフィットネス”。今の自分のお口の状態をチェックでき、鍛えたい部位に適したトレーニングが毎日アプリに送られてくる仕組み。

内山千代子(写真中央)
唾液検査開発・健康診断ビッグデータ解析業務等を経て、グループマネジャーとして口腔機能分野の基盤研究を推進。「生涯を通じて美味しいものを食べ、楽しく会話し、笑い合うための健康なお口づくりに少しでも貢献できるよう、日々の研究活動に取り組んでいます。」

青山薫英(写真左)
唾液検査研究・健康診断ビッグデータ解析業務等を経て、技術開発リーダーとして口腔機能分野の基盤研究やサービス開発を推進。「安心して使っていただける確かな技術をお届けできるように日々努力し続けます。」
 
林滉一朗(写真右)
咀嚼に関する研究・健康診断ビッグデータ解析業務を経て、口腔機能分野の基盤研究を担当。本プロジェクトでは社員食堂においての情報発信などを企画・推進。「前向きな習慣としてみなさんの中に定着するような技術・製品開発を目指して頑張っています。」

取材を終えて
食べて話す、そして笑うという当たり前の行為ができなくなるというのはなかなか想像ができないし、想像したくないテーマです。今や人生100年時代と言われるほど長生きの時代。オーラルフレイルを予防する製品・サービスを提供していかなければという使命感を持って研究している研究員の想いを聴き、改めてその必要性を強く実感しました。

そして、研究所として、これまでむし歯や歯周病に対処してきたのと同様に、いつまでもアクティブに健康に生きるための新しい概念として、オーラルフレイルケアの重要性を社会に伝えていくのだという。彼らの研究の成果が耳目に触れる日が楽しみです。

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